kitta x chisaki

Interview with kitta 2

行き先よりプロセス
何かを発見する自分を見逃したくない

kittaの洋服が一堂に並べられた時に見る色の連なり。全て植物から生まれた色の鮮やかさ穏やかさが、目を喜ばせる。植物染めが連れてくる美しさは、どこにあるのでしょうか。
「全部が手作業で自然のものである、というところが、私の中では、自然の風景に似ていると思う。森を見ていても、奥行きがあるじゃない。ゆらぎ、動き、重なる奥行き。それこそが美しさだと思ってる」(橘田さん)

 

吉祥寺のchisakiアトリエに染色を終えた帽体とリボンが届くと、苣木は、直感でどんどん色合わせを組んでいきます。とてもスピーディに。最初から決めず、届いてから組み合わせを決めるのだそう。染められた表情に感じ入りながら。
「一見、青と映る帽子の中にも濃淡があって、奥行きもある。使っていると少しずつ色が抜けてくる、というか、変わってくるじゃない。染めてもらった帽子を何年も被っていると、その色が抜けてくる感じもすごく好きなの。リボンとの合わせもね、最初のコントラストとは違っていく。使っている人それぞれの個性が出てくる。それが本当に好き」(苣木)

 

苣木が、橘田さんのワークショップでの記憶として「植物染めの色が衣服に移ることで、その人を浄化したりお守りになったりするんだよ、と聞いたの」と話し始めると、橘田さんが「浄化、とは私は言わないよ! のりちゃんが、自浄作用によって浄化されたんだね、きっとね」と訂正する。
「それはその人の感度と呼応して起こることだから。ご利益みたいな話とは全く別。色から何かを受け取るとして、それは個人個人が自由に感じたらいいなと思っています」  固定してしまうことの違和感がすごくある、と橘田さんは言います。
「例えば、感覚に言葉を与えると、その言葉の枠組みからはみ出にくくなってしまうことがあるじゃない。なんでも、フレームを与える、というのはそのものを限定することだから」
それは、言葉には価値がない、という意味ではなくて、言葉の力を理解しているからこそ、言葉の使い方にはとても気を使っている、というふうに聞こえました。

目的の色は、具体的には定めずに染めを始める、とは前回も書いた通り。
「ずっと染めをやってきたから、目指した色を染める技術は、あるの。狙おうと思ったら狙えてしまうから、そこを半分は意識して、あとは全部自由にさせておく。そうでないと見逃すじゃない。自分に対して。自分がいつも発見していたい。いつも、目の前のことに対して、発見とか感動とかしていたい、というのがいつもあると思う」

 

そうじゃないと、自分を見逃す。橘田さんの言葉に、苣木も深く頷き、会話のスピードがぐんと上がりました。

 

私も、木型でかたちをつくる帽子もあるけど、手でつくるものもあって、一応目指すかたちはあっても、途中で変わっていくの。目指しているものと全然違うものができたりすると、それは失敗ではなくて、そこで偶然発見したかたちができて、なんか私、天才!めっちゃ天才!て……」

 

「……なるよね!」

 

「決めていないところからの、いいものができた時って、嬉しいよね」

 

「行き先よりプロセスだね、大事なのは」

 

「きっちゃんに、今回はこんな3色が欲しいな、と言っても、具体的な色味はすべてお任せ。仕上がってくるのが楽しみなの。自分がイメージしていたのはこんな感じの色だったけど、きっちゃんはこんな感じなんだ、と言うのを、言葉じゃない感覚のキャッチボールができている感じで嬉しい。私はそこから、この色だったら、このかたちが被りやすいかな、というのを今度はお客様とキャッチボールしている気持ち」

 

「遊ばせてくれているの、のりちゃんが」

 

kittaの活動は、もとは東京の一人暮らしのキッチンから始まり、千葉の鴨川、沖縄へと移動しながらも少しずつ変化してきました。沖縄に移動して10年。藍の栽培など、原材料から自分たちで手がける時期も通過して、今はもう一つ先のあり方を模索しているそうです。

 

「最近はね、誰にどう思われるかとか、そういうことからどんどん自由になって、今が一番刺激的だと思っているの。子どもたちも育って、そしてまた新しい縁を連れてきてもくれる。自分が通過してきたものが全部また融合している感じがする。10代の頃の尖った自分、20代からのスーパーオーガニックライフ、そしてまた今、キッズ魂がね。奄美大島で同じく天然染めをしている金井工芸の金井(志人)君とパンクユニットみたいなバンド気分で一緒に制作したりして」

生きている土地や生業が違っても、尊敬する仲間たちに出会ってきた。そのことを、橘田さんは「灯台みたいなもの」と語る。

「思いを分かち合える小さな輪がいろいろなところにあって、私にはそれが灯台みたいな人たちだと思っていたの。みんなが光って周りを照らしている。それが星座のように編み目で広がって行ったら、全体がウワーッと照らされて光に満ちる、みたいなことが、私のある種の成就のイメージなんだけど、それと同時に、今は、共通分母としての社会というものにも目を向けながら、恐れずに、明確に、思いを表現していくべき時だと思っているところ!」

 

橘田さんは、洋服をつくるだけでなく、染めた布を使ったインスタレーションも度々発表しています。同じ染料で染めた薄いシフォンを微細に重ねて生み出すグラデーション、あるいは色が連綿と移り変わり天に昇るような吹き抜けの長い吊り。そしてそこに添えられる言葉。 橘田さんは、まだ何者になるとも定めていなかった頃、文章や詩を綴り、絵を描いていたそうです。結果的に「言葉を一度諦め」、色を選んだという橘田さんですが、今、橘田さんが染めと共に発する言葉自体の力強さは、染めのメッセージを支え、私たちの心に届いているように感じます。

信じることをやるのが大事。いつだって、選ぶべきは、愛。 共通する思いを持つchisakiとkittaのものづくりが交差して、手渡された帽子から、一つでも多くの笑顔が生まれますように。

Peace begins with a smile.