kitta x chisaki

Interview with kitta 1

いつか消えてなくなるものをつくりたい
瞬間の美しさと、儚さへの憧れ

chisakiの帽子を初めて見たのは都心の小さなギャラリーでした。 どの帽子もエレガントで、でも気取りがなく、自然に放たれる穏やかな陽気を感じさせます。 頭にのせて、ルンと心踊らせる女性たちの顔が、その帽子の気配を物語っていました。 かぶることで緊張するのではなくて、心を和ませる帽子。

その中に、kittaが染めたいくつかの帽子がありました。 草木を原料として染めを行うkittaによる天然染めの帽子。 二つと同じ色のない染め上がり。 リボンも染められて、より穏やかに心に響く色と表情をなしていました。

目的を定めない旅のようなものづくりの楽しみ方を共有するkittaとchisakiが積み重ねてきたコラボレーション。
制作する日々の裏側で、どんなことを感じ、考えているのか。kittaの橘田優子さんにお話をお聞きしました。

インタビュー kitta 橘田優子さん
聞き手 chisaki 苣木紀子
構成・文 森 祐子

「chisakiの帽子は、エレガントだけど健康的。ロマンティックすぎず、品がある。のりちゃんの人柄とリンクして、サバッとしていて風通しがいい」
それが私の好きな感じとフィットしている、と橘田さんは言います。
二人のお付き合いは、苣木がchisakiを始める前、勤めていた会社から独立した6年ほど前のこと。 kittaの染めのワークショップに、苣木が一人の参加者として参加して気持ちが通じ合い、自然と友人づきあいが始まりました。 お互いを、きっちゃん、のりちゃん、と呼び合う平らかなやり取りの中に、二人が大事にするものづくりへの気持ちがたくさん詰まっていました。

今回は、ラフィアとアバカ(マニラ麻=バナナの木から取る繊維)、そしてバオ(ココヤシの繊維)からつくられた4つの型の帽子。 まずは帽子のかたちになる前の「帽体」をkittaで染め、chisakiの手に戻して成形し、帽子の仕上げをします。 kittaでは、届いた素材の表情を見て、染料との合わせを想像していきます。

「この光沢にグレーが重なるときれいかな、とか、グレーの濃淡にさらに藍を重ねたらまたよさそう、とか。決まった色を目指して染めるというのは私にとって少し窮屈なこと。プロセスの中ですごくいい色が生まれたりする。どこの色を取り出すか、のりちゃんは任せてくれるので、やっていて楽しい、とても」
一瞬一瞬の美しさを見つめる橘田さんの感覚を、苣木も信じて委ねます。 「橘田さんの感覚には絶大な信頼があるので、大まかな色の方向性だけお伝えして、あとはお任せです。染めによる濃淡がそれぞれに違って、そのゆらぎが好き。kittaとの取り組みに関しては、このゆらぎも楽しんでいただきたいんです」(苣木)

今回はどれも、植物から手で繊維を取り出し、手で編まれた帽体を使っています。

「もともと誰かの手を通ってできたものだから、同じように染めても、色の出方が違う。のりちゃんの言うゆらぎを狙っているわけではなく、自然と均一ではなくなる。狙っていないところで出る美しさって、いいよね。染まりにくかったとしても、だからこそ出る面白さもあって」(橘田さん)

そもそも、帽体一つひとつに個性があって生色も違う。全く同じように染めようとコントロールするより、ひとつひとつの素材を受け止めて、それぞれに美しさを見出すのが、橘田さんの考え方。

「多分、植物染色であるということに加えて、手で染めているというのが重要なんだと思う。(ゆらぎの美しさは)狙っていないし、狙えない。そこはもう、狙えないって降参しているほうがいいと思ってる。私たちは、最初から自然には敵わないから」(橘田さん)

それが色ムラなのか、美しさなのかは、その時、その瞬間の自分の感覚でしかない。

「予測不可能ないろいろな作用が入ってきた時、あまりにもきっちりゴールを描いていたら、そうでないものができてきたときに、失敗だと思ってしまうかもしれない。けれど、自分を柔軟にしておくと、良さを発見して活かす方向に着地させてあげられる。自然からフィードバックされてくることを、常に勝手に教わり続けている、という感覚なの」(橘田さん)

ゴールを描くのではなくて、受け入れて進む余地を自分の中に持っておく、ということ。変わり続ける状況に柔軟であるということは、強さでもあると感じます。

「ものには多面的な見方がある、ということは、いつも自分の”設定”の中にはあります。デフォルト的に。今日の私と昨日の私は、同じだけど違う。むしろ変わらないものに対する違和感は、ずっと持っているかも。染色も、ずっと変わらない色を求めるなら、化学染料しかないけど、そうではなくて、最終的に消えてなくなったり、土に還る、とか、そういうものに魅力を感じています。時間とか、あらがえないものによる変化みたいなもの。若い時からずっと、消えて無くなるものを作りたい、といつも思っているの」

そう言う橘田さんに、苣木も、「美しいね。消えて無くなるものをつくりたい。いいね」とゆっくり言葉を重ねました。